みど×あお(眼鏡等)
目の前が明るい……いや、これは外が明るいだけだ……うっとうしい……どうしてこんな寒い朝を迎えなくちゃならいんだ……きょうは休みなのに……目が覚める……いや、目が覚めるなんて気持ちいいものじゃない……何かここはもっと重たいものがあるような……?
毛布をたぐり寄せようとして、引っかかりに気づく。目を開けると目の前によく知った背中が見えた。ああ……そういえば、きのうはみどりと一晩過ごしたんだっけ。みどりは満足そうに寝ていた。本当に納得のいかない背中だ。
「い……った……」
身体を起こそうと思った。毛布が重くて起き上がれない。その上、身体のあちこちが痛い。 いや、手足だけじゃない、喉まで痛くて、声を出すと咳き込みそうになる。
なんでだ──考え始めて、すぐさま飲み込んだ。そんなの、考えるまでもない。みどりが悪い。
元凶のみどりは目の前にいる。スウスウ寝ている背中を見ているのだって憎らしい。
「みどり、みどり……」
隣で丸まっていたみどりを起こそうと思った。でも、中々起きない。めんどくさい。一発ケリでも入れてやれば飛び起きるかもしれない。でも、立ち上がる気力はやっぱりない。
なんどか揺すっているうちにようやく動きがある。
渋い顔をのぞかせて挙動不審に首を回したかと思えば、目を細めていた。
「なに……?」
「時間……」
「ええ……? ああ……」
みどりが視線を曲げて時計を見る。まあ、そろそろいい時間だ。延長料金を払うのはいやだ。
わたしがもぞもぞしているうちに、みどりは一つノビをして立ち上がる。
グズってたくせに起きたら動きが早いやつだ。いや、いつもこうなんじゃない。いつもなら、もっとグズっていただろう。むしろ、けさに限っては、わたしのほうが動き出しが遅いんだけど。
起き上がったみどりは、部屋の中をうろうろした上に冷蔵庫に近づいて、中を開け、何か言っている。
「あおいー、なんか飲む?」
「うんー……」
「水? お茶?」
「水……」
「はいよー」
そうだ、声が出にくいのは喉が渇いているからだ。みどりがトコトコと近づいてきて、水のペットボトルを差し出した。ペットボトルを受け取って水を飲もうとする 。伸ばした手の先に、見慣れない姿がある。
「ええ……?」
「え、何?」
けげんそうな表情を浮かべるみどり。ボサボサの金髪は寝起きだから仕方がない。眠くて不機嫌そうな顔もいつものこと──わたしがとまどったのは、そんなものじゃない。いつもなら身につけていない、あるもの──それが、目についたからだ。
「いや……メガネ」
「え?」
「コンタクトなの?」
「え……ああ、うん。まあ、なきゃないで困んないんだけどね」
わたしのことばをみどりがどう受け取ったかはわからない。でも、みどりは、身につけていたメガネをクイっとあげて、自慢そうにふっと笑ってみせた。
「どう?」
「優等生じゃん……」
「そうだろ、昔はさァ──」
自慢げにみどりが話し始める。その言葉を、私はよく聞いていなかった。
そういえば、前にみんなと名古屋に行ったとき、「わたしが優等生だったころ……」なんていかにもありえない話をしていた。あれは本当だったんだ。でも、あのときはくだらないと思って、まともに取り合わなかった。こうして、いま初めて目の前に見てみると、そんな時代もあったのかもしれないと思う。
でも、わたしはみどりの昔を知らない。みどりが優等生だった頃も、みどりがわたしに出会う前も。
それからみどりはテキパキと準備を整え、立ち上がってわたしを振り返った。
「ほら、ぼちぼち出ないと」
「うん……」
「どうした?」
みどりが優しく声をかけてくれる。そうだ──みどりはいつだってこうだ。わたしのことを考えて、わたしのことを見ていてくれる──それが恥ずかしくて、わたしは、つい目を背けてしまう。
「……なんでも」
「ええー?」
みどりが不満そうな声を上げた。そうだ、こいつは、 いつもこうだった。わたしはみどりの前に立って部屋の外に出る。
それが、わたしなり、わたしたちなりのやり方だった。
立ち上がる。荷物を受け取る──わたしの、見たことのないみどりから。