ブキスケちゅー未遂事件の第三
「ミミ助〜〜」
「あ、あの、依吹、サン……?」
「ミミ助……好き……ね、ちゅー…しよ……?」
「い、依吹、ダメだよ……」
「みみしゅけ〜〜」
「ダメダメダメ! 酔っ払いすぎだよ!」
ミミ助が依吹を押し戻す。でも依吹はすっかりできあがって、全身をミミ助に預けるようになっているから、足をくずして座った今の姿勢じゃつらいはずだ。
飲み物さえこぼさなければ別にいいけど──と思って眺めていたら、がんばって依吹を支えるミミ助が、こちらを振り向く。
「ちょっと! リッちゃんも、見てないで助けてよ!」
「はいはい。しかたないな〜」
苦笑いを浮かべて、ゆっくり立ち上がる。ぐずる依吹の背後に回って、ミミ助と二人で毛布のあるところまで運んだ。
まあ、この光景も何度目になるだろう。
依吹が成人する前から、わたしとミミ助はときどき会って飲み会をやっていた。といっても、たまに会ってご飯を食べながら少し飲むくらい。わたしはあんまりお酒に強いわけじゃないし、ミミ助だって似たような話だった。オフの時間をミミ助と過ごすのは楽しかったし、近況報告をしながら、またがんばろう──って気持ちをあらためるいい機会にもなっていた。
「ミミ助、大丈夫?」
「うん。ありがと」
「いや、いいけど。依吹、きょうはまた一段と荒れてんね。何かあったの?」
「う、うーん……? なにもないと思うんだけどなあ……」
ミミ助が首をひねっている。なにもないというのは多分本当だろう。少なくとも、ミミ助視点に立ったときは。反対側はどうだからわからない。なにせ、依吹のことだし。
依吹がこの会のことを知ったのはずいぶん前らしい。らしいんだけど、参加するようになったのは成人して少し経ってからだ。
依吹が知ったのは、もちろん、ミミ助から聞いて。その時どういうやりとりをしたのか、詳しくは知らないんだけど、依吹はそっけなく返事をして終わりだったらしい。
なんというか、そういうところが依吹らしいような気もする。別に、ミミ助を独り占めしていたいわけでもない。まあ、せっかくだったら二人で人目も気にせず話し込みたい、みたいな欲がないでもないけれど、依吹がいたって全然構わない。構わないんだけど、しぶんがいたらおじゃまなんじゃないか──なんて遠慮してしまうのが、依吹らしいところ。でも、無視できるほどでもなくて、少し嫉妬してしまうのが余計に依吹らしい。
依吹がミミ助のことを好きだっていうのは、本人こそ絶対に口に出して言わないけれど、少し見ていればすぐわかる。スタシプで出会ったばかりの頃は、あれでじぶんなりに隠しているつもりだったみたいだけど。いまとなっては打ちとけたわたしたち3人の仲だから、もう隠さないでいる。
「はあ〜……」
「ミミ助、おつかれ」
「ありがとう……」
依吹を運び終えて、少しげんなりした様子のミミ助にグラスを渡す。グラスに口をつけてため息をこぼしたミミ助に誘われて、こちらも少し、苦笑いをこぼしてしまう。
依吹がじぶんの気持ちを隠さなくなったのは、わたしたちを信頼してくれているみたいで悪い気はしないものの、さっきみたいにロコツにのろけられると、それはそれで鼻で笑ってみたくもなる。
依吹のほうが素直になったのは、たしかに悪いことじゃない。悪いことじゃないんだけれど、その好意をストレートに向けられているはずのミミ助は、依吹の「好き」に気づいているのかいないのか、はっきりした答えを返さないままで来ている。
「ミミ助は、依吹のこと、好きじゃないの?」
ふと、そんな言葉がこぼれる。わたしの言葉をどう受けったのか。ミミ助は両手でグラスを持ったまま、きょとんと目を丸くした。
「好きだけど……」
不思議そうに首を傾げるミミ助。ミミ助が、すぐ下──もう少し踏み込めばなくなってしまいそうな距離の先で、おそるおそる、上目遣いにわたしを見つめている。その様子も、わざとなのか素なのか、つくろったところがない。まじりっけなしのピュアな視線が、わたしを先へと駆り立てた。
「──それって、こういう好き?」
「……え……?」