ブキスケちゅー未遂事件の第二
「ミミ助〜」
「あはは、くすぐったいよ〜」
「うん〜」
「そんな悪い子には……こうだ!」
「あ、ははは、くすぐったい〜」
「思い知ったか!」
「ん、ふふふ……」
グラスを3杯も開けてすっかり上機嫌のリッちゃんが、さっきからずっとミミ助の腕にからんでいた。ミミ助は開いた右手でテーブルの上のグラスやおつまみを遠ざけると、そのままリッちゃんに向き直って相手をしはじめる。
手をわきわきさせたかと思えば、だらしない表情で絡んでくるリッちゃんのほほをつまんだり、わきばらをくすぐったり──いや、まて、くすぐるにしては手つきが怪しいんじゃないか。
たぶん酔って絡んできたリッちゃんに対するミミ助なりの配慮なんだろうけれど、手つきが優しすぎる。力を入れてくすぐるというより、服の上から感触を確かめるように優しく優しくさすってあげるような──さすられているリッちゃんも、くすぐったいのはほんとうだろうけれど、どこか心地よさそうに、ねこだったら喉でも鳴らしていそうな、安心しきって眠たそうな表情なんか浮かべて頭をこすりつけている。
ミミ助は、そんなリッちゃんに「おねむか〜?」なんてのんきにたずねがら、くすぐりというよりは支えるような、それでもやっぱり指先を動かすようなくすぐりを──ええい、それはもうくすぐりなんかじゃない。フェザータッチだ!!
しばらくフェザータッチ(!)をしていたミミ助が、からだを丸める。あ、あ、あ──やめて、それ、もうキスの距離──いや、リッちゃんだったら仕方ないかも、だっていい子だし、やさしいし、ミミ助との仲だって、スタシプの頃からずっと良かったんだし──いや、やっぱり、わたしの目の前だなんて、の、脳が……脳が壊れちゃう……!!
「……〜い?」
「は、あ、あれっ!?」
「おっと。依吹、大丈夫?」
「い、いままで見ていたミミリツは……?」
「え? なにそれ」
目の前にミミ助の顔がある。挙動不審になるわたし。それはそう。だって、直前まで、あんないやらしいシーンを……じゃない、じゃない。コホン、息を整える。
「あ、あれ、えっと、り、リッちゃんは……?」
「寝ちゃった。疲れてたのかも」
そういいながら、ミミ助が少しからだを引くと、テーブルの向こう、クッションの上で丸くなって寝ているリッちゃんのすがたが見えた。
そうだ、そうだった。ミミ助は眠気でとろとろになったリッちゃんの顔をのぞき込んでから、痛くないように優しくクッションを抱き寄せて、その上に寝かしつけてあげたんだった。ミミ助はキスなんてしない。断じて。だって、まだわたしだってキスもしたことないんだし──
「依吹、お〜い、依吹さ〜ん?」
「あ、あは、あはは! ご、ごめん、ちょっと疲れたかも……」